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「おやおや、これはこれは」
常人であったら思わず目を背けてしまうような光景。
しかし、生粋の殺人鬼である零崎双識は特に狼狽する様子も無く、まるで日常が何の変化もしていないかのように、落ち着いていた。
いや、それだけではない。
双識は一瞬で全てを理解した。
目の前で、生を一欠片も匂わしていない少女が先ほどまで自分が追いかけいたのと同一人物である事も。
「はあ~。非常に残念であるが、今回も妹はお預けのようだね。一体いつになったら私に妹が出来るんだろうか?」
双識は、右手で自分の顔を覆い天を仰ぐ仕草をした。
それは、やや芝居掛かっていて大袈裟に感じる動作であったが、彼をよく知る人物であったならばこれが彼の「素」である事が分かるだろう。
「とにかく。こんな身の毛もよだつ殺人現場を見てしまった以上、いかに私が善良なる一市民だろうと、見過ごす訳にはいかないんだろうねえ」
そう誰に言うでも無く一人つぶやくと双識は部屋中に散らばった少女の欠片を器用に避けながら、部屋の中でもう一人倒れている男のところまで進んでいった。
「さあさあ、私に教えておくれ。君は一体全体、誰なんだい?」
そう言って静かに男の肩を揺さぶる。
浮き沈みする胴体、かすかに聞こえる呼吸音。
離れていてもこれだけ確認できたので、死んでいないという事は明白だった。
「う、うーん」
男はゆっくりと目を覚ます。
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