「アスリートの限界」と「零崎のススメ」

21/39
前へ
/361ページ
次へ
双識は右手を小暮の方に向けながら告発した。 その行為は、さながら名探偵のようであったがニコニコと笑みを浮かべていたので、どうにも間のぬけた光景となった。 「さっきから言ってますように、証拠は何もありませんよ」 小暮は努めて冷静に、いや、特に意識する事もなく話す。 対して、双識は嬉々として語る。 「いやいや、証拠とはそんなに重要なのかい?君は何かする度に証拠を提出しているのかい?そんな事はないだろう?外出する度に、バスに乗る度に、呼吸する度に、毎回毎回、誰かに証拠とやらを見せびらかしているのかな?そんな事はないだろう?証拠とは所詮、過程と結果を証明する為のものであって、それ以上の力など無いのだよ。証拠がないからと言って、起ってしまった事実を否定する材料にはならないのだよ」 「屁理屈ですね」 「屁理屈だねえ」 双識は一旦黙りこくった。その間は言う事が尽きてしまったというよりも、次に発する言葉に重みと重要性を持たせようとしているようだった。 「もう君も理解しているだろう?私たちは『家族』だということを。もう感覚で理解しているはずだ。君はその自分の気持ちを否定する証拠を用意出来るのかい?」 「アハハハハハッ!!どうやら何を言っても駄目なようですね!」 小暮は双識と話し出してから、初めて笑顔を見せた。 「何故かは分からないが、あなたの言っている事は理解出来る。俺は確かに理解していますよ、この気持ちをうまく言葉には出来ないですけど」 「全く、この零崎双識を相手に化かし合いをしようなんて無駄無駄さ。大方、さっき警察に連絡しようとしていたのは、そのまま何処かに逃走でもしようと考えていたんだろう」 「すごい、ご名答です。そこまで分かるんですか?」 「そりゃ分かるさ。愛する家族の事だからね。さて、招かれざる客の登場かな」 「? どういう事ですか?」 小暮が聞き返すと共に、ドアがゆっくりと開き出した。
/361ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加