「アスリートの限界」と「零崎のススメ」

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「な、なんだこりゃ!?」 沙汰懸命は部屋の中の光景を見て、辛うじてそれだけ口にした。 そして、その後は声を発しなくなった。 無理もないことだろう。 むしろ、一般人の反応としては落ち着いていたと言える。 「小暮君、彼が君の親友かい?」 「ええ、こいつが懸命です」 双識は懸命の方を向き、深々とお辞儀した。 「やあ、懸命君初めまして。私は零崎双識というものだ。以後お見知りおきを。状況が分からず混乱しているようだねえ。無理もない、死体を見るのは初めてかな?」 「し、死体?じゅ、純菜?おい!小暮!これは純菜なのか?」 ここでようやくパニックになった懸命に対し、小暮は落ち着いた対応で、「そうだ」と答えた。 もちろん、それだけで懸命は納得が出来ずに小暮と純菜、そして細長い男を幾度も幾度も見比べていた。 「うんうん。突然、日常の中に死体なんか登場したらそうなるよねえ。よし、ここは紳士たるこの私が簡潔に、その上面白おかしく説明してあげよう」 双識の懸命に対する説明は、主観的で短絡的で逆説的で、分かりやすく言うならば、メチャクチャなものとなった。 その上、全く面白くもないものだった。 それでも、なんとか懸命は純菜を殺したのは小暮であるという事は理解出来た。 「小暮。純菜を殺したのはお前なのか?」 この問いに小暮は、「そうだ」と先ほどと同じ調子で答えた。 「そうか、そうなのか。だったら小暮。お前はオシマイだ!」 懸命は嫌らしい笑顔を浮かべながら小暮を指差しながら、叫んだ。 双識は、およそ常人ならざる懸命の反応が予想外で思わず小暮の方に視線を向ける。 小暮も同じ気持ちだった様で双識と同様に驚いた表情を浮かべ、お互いに顔を合わす結果となった。 「いいか小暮!俺は昔からお前が気に喰わなかったんだよ!孤児だが何だか知らねえが、いっつもいっつも俺の前に立ちはだかりやがってよ」 ペッ、と室内にも関わらずに唾を吐きながら懸命は小暮に罵声を浴びせる。 「たまたま同世代で顔を合わす機会が多かったから、周囲はライバルだなんて言い始めやがった。ふざけんなよっ!!俺とお前が対等なわけねえだろうが!!それでも純菜が、そこに転がってる女がいたから仲の良いフリしてたんだよ。良い女だったからなあ。俺の女にならなかったのは残念だが、最後の最後で役に立ってくれたみたいだな、小暮を破滅に追い込んでくれたんだからなあ!!」
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