「アスリートの限界」と「零崎のススメ」

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喋り終わるとおよそ品性を感じさせない様な笑い声を上げながら懸命は部屋を出て行こうとした。 「おいおい懸命君、何処に行くんだい?」 「あ~?決まってんだろ、警察を呼びにいくんだよ。これで小暮はもうレスリングなんて出来ないだろうよ。これで今日の優勝はこの沙汰懸命で決まりよ!!誰だか知らねえが、邪魔してんじゃねえよオッサン!!」 「オッサン!?」 双識はその言葉に頬を引きつらせた。 小暮は、ただ、ひたすら沈黙を続けていた。 それは何かを確信しているようであった。 「こ、この私にオッサン?い、いや、その事は置いておこう。うん、私は紳士だからねえ」 そう呟きながら双識は背広の内側に手を突っ込み何かを取り出した。 次の瞬間、小暮と懸命は目を見開き驚愕した。 双識が取り出したもの「はさみ」だった。 いや、それは「鋏」と表記する方が正しいだろう。 ハンドル部分を手頃な大きさの半月輪の形にした、鋼と鉄を鍛接させた両刃式の和式ナイフを二振り、螺子で可動式に固定した合わせ刃物。 それは鋏の形を模しているというだけで、文具の類で決して無いということは一目瞭然。 その双識の様子を例えるならば、鎌を携える死神の様に不気味であった。 「懸命君、君の態度はあまりにも醜すぎる。君は小暮君の事を理解していない。いや、理解しようという気がないのかな?」 双識は「しゃきん!」と二回ほど鋏を動かした。 ただの握力運動というには、あまりにおぞましい光景だった。 小暮は双識の仕草を見て、愛刀を舌舐めずりする残忍な人斬りを連想する。 「懸命君、君は不合格だ。もちろん、私を『オッサン』呼ばわりしたという私怨は全く全体関係無く、何の遺恨も侮辱も無いという公平な判断だからね。安心してくれたまえ。勘違いしないでくれよ。私はそんな事にいちいち反応する様な小さな男では無いのだからね」 双識それだけ言うとその禍々しい鋏を懸命の方へ向けた。 「君の態度は、あまりに不誠実で、無責任で、非人情だ。そこに横になっている純菜ちゃんに対しても、小暮君に対しても、ね。だからこその不合格なのだよ」 双識は再び鋏を「しゃきん!」といわせた。 「それでは零崎を始めよう」
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