「アスリートの限界」と「零崎のススメ」

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男が一人、人の気配から離れた部屋にいた。 普通だったら、個室の部屋が与えられることはないのだが、立派な体育館は多くの空室が目立っていたので、無許可で男は使用していた。 四メートルの正方形で、高さは二メートル程の空間があれば精神統一には充分だった。 男の名前は天然堂 小暮(てんねんどう こぐれ)といい、今大会の優勝候補だ。 黒のタンクトップにアーミー柄のハーフパンツでイメージトレーニングをしていた。 耳にかかった黒髪、レスリングの男性選手としてはやや長いくらいかもしれない。 背中はとても広く、タンクトップで覆いきれず肌を露にしていた。 露出された背中はとても綺麗だ。 背中という部位は「顔」と同じく肌が荒れやすい部位なので、背中を見るだけでコンディションが良好なのが伺える。 「さて。そろそろ午後の部が始まるし、着替えようかな」 小暮が競技服に着替えようとした時、「コンコン」と扉をノックする音がした。 小暮は少し緊張した。 今、自分は無断でこの部屋を使用している。 大会の実行委員にばれたら、失格にこそされないだろうが説教位は覚悟しなければならない。 必然、このノックを無視しようと思った。 しかし、この扉には鍵がついていない。 ドアはゆっくりと開いていく。
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