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懸命が部屋を去り、小暮は再び精神を集中し出した。
レスリングに限らず対人関係の動きの中では、どうしても本当に非常に僅かではあるが「運」というものが関係してくる。
ボクシングなどで「ラッキーパンチ」と呼ばれる類のものだ。
これらの結果は、諦めずに行動した「必然」の結果であることは疑いようのない事実であるが、それでも、勝負の中には「偶然」も関わってくる。
たまたま出したパンチが当たった。
たまたま相手の体重移動と自分の動きが重なって都合の良い体勢になった。
これらは、動く側の「必然」と受ける側の「偶然」の産物。
主に、受ける側の一瞬の集中力の欠如が原因になってくる。
だから、小暮は試合前の瞑想を大事にしていた。
勝負に「運」が絡んでくるのは集中力が足りないからだ、と考えている。
集中すれば、偶然の起こりようはなく、練習通りの動きが出来る。
それは純粋に強い方が勝つということ。
レスリングのような寝技主体で実力の差が明確に表れる競技ならばなおさら。
そして、オレは誰よりも練習してきた!
誰よりも自分を信じる。
自信。
これが今現在、二十年間、自ら自身に言い聞かせてきた天然堂小暮の思考だった。
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