第一章

4/12
前へ
/12ページ
次へ
  流れ始めた景色に気持ちを乗せればスムーズなアクセルワークは夜道にこだまする。道路中央を示す白い点線が一本に変わるまでギアを上げていく―。 みんなが寝静まった時間帯にこっそり一人、夜と戯れることが危なっかしくて楽しかった。  今夜もミニメをくれたあなたの名前すら僕は知らない。彼女もまた僕を知らない。だけど見えない世界で文明の利器というべき携帯電話の世界で僕たちは微かに繋がっていた。 それはどちらかが飽きてしまえば、そこで幕が下りてしまう危うい世界。お互いの顔も容姿も声さえも知らない世界で、何千万人の中から僕たちは出会った。 伝言板やミニメという不可思議なるものに、時に励まされ、時に恋心のようなものを感じさせられる。これは擬似恋愛というべきものなのか…バーチャルな世界とリアルな世界が赤信号で止まった僕の頭の中で交錯する。 夜空を見上げれば星が散りばみナイトツーリングをロマンチックに演出してくれて、そんな夜空にお礼を言った。 信号が赤から青にそして点滅信号に切り替わる。前方に視線を移せば誰もいない長い直線道路。なぜか得した気分で軽くタンクを叩きリズムを刻んだ。 走り出した先に見えてきた海岸線―。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加