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家に着くと珍しく明かりが点いていた。
玄関の鍵も開いていた。
僕は少し嬉しくなって誰かがいるであろうリビングに向かって言った。
「ただいま」
「おかえり」
くぐもった声が応える。
あ、お母さんだ。
靴を脱いでリビングへの扉を開けると、やはり母がいた。
大きなトランクに着替えを詰めているところだった。
「どっか行くの?」
「今から一週間アメリカ。仕事でね」
「あ、そう」
「お父さんもだから…。ねぇもうひとつトランク持ってきて」
「はいはい」
ひさびさに早く帰ってきてると思ったらこれだ。
僕は階段下の物置から黒いトランクを取り出して、床を傷めないように少し浮かせて運んだ。
「それだわ! ありがとう。ついでにお父さんのスーツ入れてよ」
「ん」
近くに掛けてあるスーツをシワがいかないように入れた。
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