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「駄目だ!!」
あんたは昭和の威厳ある親父かよってつっこみたくなるくらい、腕を前に組んで険しい顔で俺を一喝した蒼大は、俺が何を言っても聞く耳をもたず“駄目だ”の一点張りだ。
「俺は大丈夫だから…」
「大丈夫なわけねぇだろ。絶対安静って言われてんのに東京帰るなんてマジ許さねぇ!!あほかお前は!!」
最後には“あほか”なんて罵声を浴びせられる始末だ。
さっき病院で赤ちゃんの姿を見せてもらったんだ。
妊娠4ヶ月と診断された赤ちゃんは、もうちゃんと人間の形をしていて一生懸命心臓を動かしていた。
俺が馬鹿みたいに無茶苦茶やってる間もずっと生きようって頑張ってんだって思ったら、涙が溢れて止まらなくなった。
この命を守れるのは俺だけなんだって思ったら、ウジウジ考えてた自分が情けなくなって…授かった命をこの世界で大切に育みたいって自然とそう思えたんだ。
人生ってさ、きっと辛いことのほうが多いのだろう。
だけど、生まれてきてよかったっていつか思えたならそれだけで…タブルピースもんだと思うんだ。
俺もいつか、心から“生まれてきてよかった”って思える日がくるように、これからは前だけ向いて歩いて行こうって決めた。
もう迷いはない。
「…馬、黄馬!!聞いてんのかよ!!」
トリップしていた意識を戻せば、蒼大はますます険しい表情で俺の事を睨み付けていた。
「ひぃちゃん…。」
あまりにも居心地が悪くて、助けを求めるようにひぃちゃんに視線を向けると、ひぃちゃんはフワリと微笑んだ。
何その笑顔?
助け船出す気ゼロだろ。
何だか三歩後ろのよき嫁みたくなっちゃってさ。
「とにかく駄目だ。
黄馬はここで子供を産んで、落ち着くまでここにいろ。分かったな。」
俺の都合とかはお構い無しで、ピシャリと言ってのける蒼大にもはや苦笑するしかなかった。
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