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「…その本の中身の事か、聞きたいのは。」
千秋も、手を止める。
「…あのさ。これって、モデルいるの?…いるなら、もしかして…千秋さん自身なのかなって…。」
「…俺には、答える権利はないな…千秋に聞け…。」
千秋を見ると、困ったなぁと言う顔をしている。
やっぱり、聞いたのは、まずかったかと思って、もういいと言いかけた時…。
「…和樹君は、あたし達の事、色々知ってるもんね。気になるよね。」
その後、ニコッっと笑って、教えてくれた…。
「…里緒菜のモデルは、あたし自身だよ。」
和樹は、複雑な気持ちだった。
「…ぼかしてるけど、実話なの?…これって…。」
「さあ、どうかな?…なんて、言って、そうですかって、納得できないよね。
これは、自伝じゃないし、厳密には、私小説じゃないよ。モデルは、あたしと兄さんだけど…。
特定の人にだけ、わかるメッセージを織り込んであるのよ…。これには…。」
そう話す千秋の目は、真っすぐ和樹を見ていた。
「…お兄さんと…そういう関係だったの…。」
聞いてから、後悔する…。この流れだと、肯定されるのは目に見えている…。
「…不潔よね、そんな関係って、和樹君からすれば。
真っすぐ、あたしを見てくれていた和樹君にすれば、裏切られた、気がするんじゃない?
でもね…そんな和樹君になら、いつか、わかってもらえる気がするな…。
あたしはね、自分の居場所を探していたの…ずっと、ずっと…。
兄さんの隣は、結局、あたしの居場所じゃ、なかった…。
彰と出会って、初めて自分を、見つめられるようになったし、ここが、あたしの居場所だって、言えるようになった。
…この話を書いたのは、昔のあたしに、サヨナラする意味もあったのよ。
今のあたしを、認めたい。自分自身で。…だから、書いたの。
彰には、何度も、本当に、これで、賞に応募するのか?って、聞かれたよ。
でも、引っ込める気は、全然なかった…。
むしろ、これでないと嫌だって、押し切ったの。」
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