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10月…千秋の新刊が、店頭に並んだ。
《万華鏡の想い》のタイトルに合わせて、万華鏡を覗いた時のイメージで、デザインされた綺麗な表紙は、人目をひいた。
読み手と近い年代の主人公と、ちょっと危険な匂いのする恋愛物語は、あまり文芸書に手を伸ばさない若い子達にも、好評だった。
なにより、丸岡書店が、文芸賞の受賞作ということで、大々的に、PRをしてくれた上に、各書店への売り込みにも、力を入れてくれたこともあって、売上を伸ばしていた。
「…本当ですか!ありがとうございます。
…はい…次回作ですか?
…吉水は、書かせていただけるんですか?
…ええ、勿論です!吉水に、必ず、お伝えします。
では、失礼します。」
速水は、長い電話を切ると、千秋を探す。
「…上かな?」
内線で、繋いである階上の自宅に電話する。
「はい♪なぁに?」
「…仕事の話だ。下りて来いよ。」
「わかった。今行く!」
階下の事務所に、千秋が行くと、速水が、ニコニコしている。
「彰、なんかいい事あったの?」
「あった、あった!
丸岡書店から、電話があってさ、新刊の売れ行きが、いいから、重版かけるってさ!」
「…本当に?」
「ああ、本当だよ。でな、次回作も、丸岡で、書きませんかって。書籍化前提でだぞ!」
「きゃ~っ!嘘~!…本当に、本当なの!」
「杉山さんが、担当一人、つけてくれるって、言ってたぞ。」
「…前に、彰の言ってた通りに、なってきたね。」
「当たり前だろ、才能あるんだから、千秋は。
俺が、見込んだ女なんだからな、お前は。
それに、俺が、丹精込めて仕上げた、逸品なんだからな、吉水千秋って、作家はよ。」
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