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「…ごめんね、二人共。私のせいで、余計な仕事させちゃって…。」
「全然、平気です。…速水さんの僕への無茶振りは、いつもの事ですから、気にしないでください。」
いいながら、和樹は、書棚の鍵を開け、本を選んで、積んでいく。
「仕事用の本は、大抵、ここに、置いてあります。
高額な本と、千秋さんの初版本なんかは、鍵付きの書棚の中です。
誰かれなく、ここに出入りは出来ません。
鍵は、原則、速水さんが、持ってます。」
手に取った最後の本を、積む。
「…本の説明の前に、後から、言ってた事の説明しますね。
ここへ初めて来られた日、チャイム鳴らしました?」
「…鳴らしました。」
「仕事関係の方や、一見のセールスは、必ず鳴らしますから、一呼吸してから、対応すれば、慌てたりしませんから。
鳴らさないで、入って来るのは、速水さんと千秋さん。それと、僕ら二人。
もう一人のバイトの亀山洋祐も、鳴らしません。
それ以外は、速水さんの叔父さんで、このビルのオーナーの芳樹さんと、山河書房の谷口さん。
それだけですから。」
「…聞いていい?…谷口さん、山河の人なのに、なんで、チャイム鳴らさないの?」
「えっ?…もしかして、千秋さんの事だけじゃなく、速水さんの事も、レクチャーしなくては、なりませんか…。はぁ…。わかりました。教えます!」
「…ごめんね。」
「その、『ごめんね』とか、『すいません』は、やめませんか?
ボランティアなら、謝られても、仕方ないけど…僕らは、あなたに、教える事で、報酬がもらえるんです。だから、やめてくださいね。」
「…わかった…頑張ってみる。」
「それじゃ、続けますね。
速水さんは、この夏まで、山河の文芸に籍を置いてたんです。
千秋さんのデビューからの担当ですよ。
結婚決まってから、同期で親友の谷口さんに、担当は、代わってもらったそうです。
ついこの前までは、山河としか仕事してなかったし、仕方ないですよ、これは。
でも、明日からは、横山さんも、鳴らさなくていいんですから、僕らの仲間ですよ。」
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