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断片的に聞いただけでも、速水彰という人は、すごく仕事の出来る人みたいだ。私と違って…。
やり手の担当編集で、“山河の速水“の名は、狭い業界じゃ、すごく有名なんだって事さえ、私は、知らなかった…。
吉水先生の事といい、速水さんの事といい…リサーチ不足、勉強不足だよね…。
速水さんと吉水先生は、取材が入って、TV局…。
今、私は、事務所で留守番をしている…。
デスクで頬杖つきながら、ため息を吐く…。
カチャと、ドアが開いた。
「速水いるか?」
チャイムを鳴らさずに、入って来る人…浮かんだ複数の人物から、当てはまらない人を消す。
「…あのう、山河の谷口さんですか?」
恐々、聞いてみた。
「そうだけど、君は?」
「…私、丸岡の横山昴です。…えっと、吉水先生の一応、担当ということなんですけど…。」
「そうか、丸岡の担当、こんな可愛い子なんだ。
昴。うん、綺麗な名前だ。
…ところで、速水は?」
「吉水先生と、TV局に…」
「TV局だと!速水のくせに生意気な!
…後の予定もないし、ここで待つか。」
えっ?待つんですか!
な、何を話せば…。
あ、とりあえず、そう!
お茶よ、お茶!
「…お茶いれますね。」
「…唐突だけど、昴ちゃんって、彼氏いる?」
「へっ?…な、何聞くんですか、谷口さん。い、いきなりな、質問じゃないですか…。」
「…で、いるの?いないの?」
初対面で、聞くな~ぁ!…なんで、そんなの聞きたがるんだ…。
ああ、答えを、期待してる顔だよ…。はぁ…。
「今は、いません。」
「本当に?…じゃあ、俺と付き合ってみない?」
「えぇ~っ!ナンパですか、こんな所で!…信じられない…。」
「…ダメ?」
「はい、お茶どうぞ。」
「はぐらかされた…。俺、真剣なんだけどな…。
どっかに、いい出会いないかなぁ…。」
「谷口さんは、彼女さん、いないんですか?」
「いたら、さっきみたいな事、言いませんて…。
速水と千秋ちゃん、見てたら、羨ましくてさ…。
めちゃくちゃ仲いいし…。
あの二人、お互い必要としてるってのが、すっげー、わかるんだよな…。
無い物ねだりだって、わかってんだけどな。俺も、あんな、わかってくれる彼女、欲しいなぁ…。」
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