678人が本棚に入れています
本棚に追加
事務所の側の駅前で、谷口さんの車を見つけた。
「こっちだよ。」
「…すいません。」
助手席のドアを、開けてくれる。
「どうぞ。」
ちょっと緊張…。
「…たまにね、打ち合わせに使うカフェレストランが、あるんだ。
まあ、速水に教えて、もらった所なんだけどさ。
そこで、いい?」
「は、はい。…お、お任せします。」
「…ははは。初デートじゃないんだから、そんなに、カチカチになることないだろう?」
だって、だって、私に気があるって、臆面もなく言ってのけてる人の車に、二人っきりなのよ…。
緊張だって、するわよ…。
「…昴ちゃんって、男の人と、ちゃんとお付き合いした事ないでしょう。」
「い、いけませんか!!」
なんか…思わず、叫んでいた。決して、谷口さんが、私を馬鹿にしたとか、見下したとか、そんなつもりで言ったんじゃないって、わかってるのに…。
谷口さんに、言われた事が、図星だったから…。なんか、悔しかったから…。
「ああ、ごめん…。気、悪くした?」
首を横に振り、すいませんと、謝る昴に、谷口も、どう声をかけるべきか、迷って…。
沈黙のまま、二人を乗せて、車は、走り出した…。
しばらく走って着いたのは、速水と千秋が、婚約パーティーをした、カフェだった。
「…着いたよ。」
素敵な店だと、昴は、思ったが、谷口には、何も言わなかった…。
黙って、谷口の後ろを、ついていく。
案内された席で、谷口が、
「…好き嫌いある?…時間かかるかも知れないし、軽いもの頼むけど、なんでもいいかな?」
と、何もなかったかの様に、話し掛けてきた。
これでも、空気は読める。素直に、ここは、返事するべきよね…。
「…特にはないですよ。」
昴の答えを聞いてから、店員に、メニューを指差して、注文をする。
飲み物を聞かれて、珈琲と紅茶を谷口は、頼んだ…。
もしかして、私が、珈琲を苦手なの覚えてくれてる?だって、私に、聞いてないし、私、答えてない…。
ニコッと、笑ってくれた谷口さんを、私は、改めていい人だと、思った…。
最初のコメントを投稿しよう!