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「ああ、やっぱりだ…。」
速水の予想通り、千秋は、泣いていた…。
「…あきっ!…あきだ!…ぐすっ…もう…うぅぅ…帰って…来ないかと…思った…よぅ…。」
関を切ったように、大泣きするから、
「馬鹿だなぁ。ここは、俺ん家だぞ。帰って来るに決まってるだろ!」
思わず、憎まれ口を叩いて、デコぴんする。
いつもなら、何するんだって、突っ掛かってくるのに、今日は、おでこ押さえたまま、涙ぐんでる。
「それに、頭、冷やして来るって、ちゃんと、言って出ただろう…。」
「…うん、言ってた。」
よしよしと、頭をなぜてやってから、ギュッと、抱きしめてやる。
「ごめんな…。いろんな意味で、無理させてるよな…俺。」
特に、なんかする訳じゃなく、ただ…抱きしめていたかった。
千秋が、落ち着くまで、ずっと、そうしてた…。
「…ごめんは、あたしが、しなきゃ…。彰に…。」
「じゃあ、お互い様って事に、今日は、しとこう。なっ。」
「…彰は、優しいね。」
やっと千秋が、笑ってくれた。
「彰…体、冷たい…。」
「そりゃあ、この寒空の下で、1時間程いたからなぁ…。」
「あたしが、暖めてあげる。」
今度は、千秋が、速水をギュッと、抱きしめる番だった。
「千秋は、暖かいな…。」
ちょっと前に、蓮とした会話を、ふと、速水は思い出した。
鈴音といても、綾といても、満たされなかった心…。千秋といれば、満たされると、蓮に向かって、確かに言った。
今みたいな事が、あると、めちゃくちゃ、そいつを感じる…。
心の中の欠けたピースは、いつも千秋が、はめてくれるんだ。
千秋じゃなきゃ、やっぱり、ダメなんだ…。
「千秋、だけだから…。」
耳元で、小さく呟いた速水の言葉は、千秋の心に染み渡っていった。
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