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「昨日の夜、店の客もあらかた居なくなって後片付けもそこそこに終わって、あとは簡単な掃除と戸締りをするだけ、という頃合だったかな。」
カウンターに寄りかかり、そのことを思い出しながらエルガが語りだす。
アルバート、ティファ、クリフの視線を浴びながら、普段無口な彼女が珍しく多弁に語っていた。
「大した仕事もなくなったから、いつものようにクリフとリオーネには先に上がってもらって、店には私一人だったんだ。」
・・・・・・
夜も更け、店は普段の騒がしい姿から静かな空気を纏う落ち着いた姿へと変わっていた。
エルガはこの店が大切であり、とても大好きな場所でもあった。
愛する夫と親しい友人、そして昔馴染みの血盟の仲間達が集う場所。
いつも騒がしくも、賑やかな客達。
どれもがエルガの宝物だった。
その日も彼女は慌しい一日を終え、一人店内に残っていた。
後片付けを終え、掃除も一通り終わる。
ひっそりと静まり返った店内を眺め、今日も色んな客をもてなしてくれた小さな店を労う。
大きな問題もなく今日の閉店時間を向かえ、エルガは扉の看板を裏返すために出入り口に向かった。
扉を開けると、外の冷たい空気が頬を撫でる。
日中は賑わっているギランの街も、この時間では暗く静かに眠りについていた。
扉の外に架かっている看板を、開店から閉店へと裏返そうとしたとき、エルガの視界に一人の人物の姿が映る。
その人物は黒いマントを着込み、フードを目深に被っているため表情が窺えない。
店から少し離れた所にただ立ち、店を見上げていた。
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