47:黒衣の男

3/5
104人が本棚に入れています
本棚に追加
/281ページ
不思議に思いしばらく視線をやっていると、その人物がこちらに気付き声をかけてきた。 「失礼だが、今日はもう閉店だろうか?」 落ち着きのある、静かで穏やかな男の声。 確かに、今まさに店を閉めようとしていたところだ。 見たところ冒険者か旅人のようだ。 無下に断り、追い返すのも申し訳ないと思った。 「いや、大丈夫だよ。どうぞ。」 エルガが扉を開けて促すと、その男は礼を述べて店に入る。 店内には他の客の姿はない。 それでもその男は顔を隠したいのか、正体を明かせない理由でもあるのか、フードはそのままだった。 長年この商売をやっていると色んな客に出会う。 こういった類の客は、大概が訳ありか不振人物のどちらかだ。 この男は、おそらく前者だ。 長年の勘がそう言っているし、なによりこの男が纏う雰囲気は、どこか悲しげだった。 男は少しの間佇んでいたが、手近にあるテーブルに腰掛けた。 エルガは特に、席に案内したりもせず、静かに男の注文を待った。 これがいつもの彼女なりの対応だ。 そのせいで無愛想に受け止められる時もあった。
/281ページ

最初のコメントを投稿しよう!