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不思議に思いしばらく視線をやっていると、その人物がこちらに気付き声をかけてきた。
「失礼だが、今日はもう閉店だろうか?」
落ち着きのある、静かで穏やかな男の声。
確かに、今まさに店を閉めようとしていたところだ。
見たところ冒険者か旅人のようだ。
無下に断り、追い返すのも申し訳ないと思った。
「いや、大丈夫だよ。どうぞ。」
エルガが扉を開けて促すと、その男は礼を述べて店に入る。
店内には他の客の姿はない。
それでもその男は顔を隠したいのか、正体を明かせない理由でもあるのか、フードはそのままだった。
長年この商売をやっていると色んな客に出会う。
こういった類の客は、大概が訳ありか不振人物のどちらかだ。
この男は、おそらく前者だ。
長年の勘がそう言っているし、なによりこの男が纏う雰囲気は、どこか悲しげだった。
男は少しの間佇んでいたが、手近にあるテーブルに腰掛けた。
エルガは特に、席に案内したりもせず、静かに男の注文を待った。
これがいつもの彼女なりの対応だ。
そのせいで無愛想に受け止められる時もあった。
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