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男のテーブルに酒の瓶とグラスを置く。
男はまた礼を言ってそれを受け取り、グラスに酒を注いだ。
氷の弾ける小さな音が、やけに大きく静かな店内に響く。
エルガはカウンターの中へ戻り、椅子に腰掛ける。
男は静かに、内に秘める悲しみを受け入れるかのように、ただ静かにグラスを傾けていた。
エルガはカウンターの椅子に腰掛けて物思いに耽っていた。
そして不意に、酒が並ぶ棚の中から一本の酒瓶を取り出し、その封を開ける。
そしてグラスに氷を入れ、酒を注ぎ、男と同じように静かにそれを傾けた。
男と同じ、故人を偲ぶための酒を。
ひっそりと静まり返った店内に、グラスに氷がぶつかる音だけが響く。
それはまるで葬送曲を奏でるように、美しく幻想的な音楽に聞こえた。
空には満月を通り越して歪に欠けた月が寂しげに輝き、虹色の風亭を仄かに照らしていた。
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