48:風の行方

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どれくらいの時間が経っただろうか。 やがて男の飲む果実酒が、その全てを故人へと捧げられる。 長い時間を費やして、内に秘める悲しみを和らげた男のグラスには、大きかった氷は今や欠片ほどになっていた。 そして男はグラスをそっとテーブルに置いて席を立ち、カウンターに座っているエルガの元へ歩み寄る。 「・・・遅くまで付き合わせてしまって、すまなかった。」 侘びながら、懐から代金を出そうとした。 しかしそれを、エルガが手で遮り止める。 「代金はいらない。・・・私の奢りだ。」 自然とエルガは微笑んでいた。 男は思いがけないエルガの言葉に驚いたようだ。 「しかし・・・」 申し訳なさそうに言葉を繋ごうとする男に背を向け、エルガは酒棚から新たに一本の瓶を取り出す。 「気にしなくていい。ただの気まぐれだ。」 男に向き直り、今度ははっきりとした意思で優しく微笑む。 エルガの言葉に、黒衣の男も表情を隠すフードの下で微笑んだ。 「では、その言葉に甘えさせてもらおう。・・・ありがとう。」 立ち去ろうとする男をエルガが引き止め、手にしていた新しい上等な酒を男に手渡す。 「土産だ。持っていきな。・・・また飲みに来てくれれば、それでいい。」 男はその酒を受け取るのを少し躊躇したようだが、エルガに半ば強引に手の中に収められる。 苦笑しながらもそれを受け取り、エルガに向き直る。 その男が顔を隠していたフードを少し持ち上げると、優しく不思議な光を宿す瞳とエルガの視線が合う。 そして男は深く一礼し店の外へ向かい、それを見送るためにエルガも扉へと歩いていく。 店の外へ出て、男は再度深く一礼すると身を翻し、静かに夜の闇へと消えていった。 不思議な男だった。 エルガは男の姿が完全に見えなくなるまで見送り、そっと扉に架かる看板を裏返した。
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