48:風の行方

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翌朝。 エルガは自宅のベッドの上で、窓の外から聞こえる小鳥の囀りで目覚める。 まだ外は日が昇り始めたばかりで薄明るい。 隣には愛しい夫がすやすやと規則正しい寝息をたてている。 夫を起こさないよう、静かにベッドからすり抜け、毎朝の日課へと向かった。 寝巻きを着替え、動き易い格好になって自宅の裏手へと回る。 まだ朝靄の残る空気を大きく吸い込み、背伸びをする。 椅子代わりの丸太に腰掛け、手には小さな手斧。 足元には薪が転がり、隣にはその薪が山と積み上げられている。 毎朝の日課となった、店の準備。 さして苦とは思わない作業。 好きでやっていることなのだが、しかし夫は申し訳ないから、となにかと手伝ってくれる。 いつの間にか自然に役割分担のようなものが出来上がっていた。 そのうち夫も夢から覚め、この薪割りが終わる頃には朝食を準備してくれていることだろう。 夫も、最初は不慣れだった料理もいつしか手馴れたもので、最近ではなかなかの腕前を披露してくれる。 色んなことに思いを馳せながら、今日もいつものようにただ黙々と薪を割る作業に勤しんでいた。 コツを覚えると楽なもので、夢中になって、不思議と楽しくなってくる。 朝日が顔を出し、露に塗れた草木がきらきらと輝いている。 一息つこうと手を休めた。 ふと、街の外門から続く道に目をやると、ひとつの影がこちらへと歩いてくるのが目に映る。 遠くてその正体を覗うことはできないが、人ではなさそうだ。 なんだろう、と、その姿見ていると、それはどうやら一頭の獣のようだった。
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