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なるほど、と納得してしまい、思わず小さく笑ってしまう。
そしてエルガは腰にぶら下げてある小さな皮袋から、干した肉を数切れ取り出す。
小腹が空いたときによく口にする干し肉だ。
「ご苦労だったね。」
労いながらそれを差し出すと、ハイウルフはエルガの手に乗る干し肉を一切れずつ味わう。
そっと、もう片方の手で美しい銀の毛並みを撫でてみる。
ふわふわとした毛はとても柔らかく、風になびいて流れていた。
ハイウルフもそれを嫌うでもなく拒むでもなく、ただエルガの手に身を任せていた。
やがてエルガから差し出された干し肉を平らげたハイウルフは、静かに見を起こす。
それを見届けたあと、エルガも満足そうに立ち上がる。
そして最後にふわりとハイウルフの頭を撫でると、ハイウルフは耳を倒して目を細める。
「マスターに伝えておくれ。確かに受け取った、とね。」
そして手を離すと、ハイウルフは口の端を持ち上げ、微かに微笑んだように見えた。
「了解した。」
その答えを聞いて、エルガも満足したように微笑んだ。
ハイウルフは立ち上がり、くるりと身を翻すと颯爽と駆け出す。
その姿は朝日を浴びて輝き、光の尾を残すかのように疾かった。
まるで風のように。
あの男も、今のハイウルフも、この地に吹いた一陣の風だったのだろうか。
様々な風が立ち寄り、集い、そしてそれぞれの地へと旅立つ。
彼らもまた、虹色に染まる風のうちのひとつなんだろうか。
再び、同じ風に出会えることを、エルガは願う。
朝日の柔らかい日差しに包まれながら、エルガはすでに姿が見えなくなったハイウルフの後ろ姿をいつまでも見送っていた。
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