牙のあと

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「此処に・・誰か来なかった?」 「え、あー・・。金髪の人が下に向かって猛スピードで」 ちぃ子の問いに答えた俺に「そう」と呟き、何か考える様な仕草をする。 そして・・殺気を完全に仕舞い込むと、俺から視線を逸らした。 「ねぇねぇ、ちぃ子」 「……何」 本来の姿の時とは違い、無関心で素っ気無くとも言葉を返してくれる事が何だか嬉しい。 その感情を隠す事無く笑って見せると・・ちぃ子は訝しげな瞳で俺を見つめた。 そんな表情には構わずに俺は言葉を続けた。 「どうしておれはちぃ子に殺されないの?」 「つまらないから」 間発を入れずにちぃ子は答える。 恐らくそれは彼女の本心なのだろう。いや、寧ろちぃ子が嘘を付いた事は殆ど無いのだが。 「おれの力が安定して無いから?」 「……」 「もしおれが本当はもっと違う性質で、きちんと力を使いこなせていたら?」 「……その時にならないと・・分からないわ」 「そっか」 ポツリと返した言葉は、恐らく彼女自身の戸惑いだろう。 おれが何を言って居るのか、おれが何を言いたいのか……きっとそれを判断し兼ねている。 暫らくちぃ子の姿を無言で見つめて居ると・・白い刀を持ち直し、クルリと背を向けた。 「それじゃぁ・・。私は行くわ……」 「うん。またご飯の時にー」 にこにこと笑って手を振ってみるけれど、ちぃ子が俺にそれ以上の反応を返すことは無い。 だからこそ、それを好機と振っていた手を下ろすと――・・ その細い背中に向かって、先(さっき)遮られた言葉の続きを呟いた。 「だから俺は……」 口の中に鉄の味が広がる。 「だから俺は……  ちぃ子が痛がらない代わりに俺が痛みを受け取って、ちぃ子が傷つく代わりに俺が傷つくから」 ちぃ子を守らせて、と・・心の中で懇願した。 きっと彼女に言ったら迷惑そうな顔で「嫌」と言うのだろうけれど。 だからこそ言わない。 俺は心の中で誓って、友達だと思って居るちぃ子を守るべき対象とするんだ。 それもきっと迷惑そうな表情を浮かべるのだろうけれど。 ちぃ子らしいその反応に……俺は寂しくなりながらも、嬉しくなるのだろう。 .
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