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そしてその数日後。
以前と少し違った位置に座って居る俺の目の前に、蓉ちゃんがやって来た。
「上手く行ったか?」
――で、開口一番にそんな事を聞く。
俺は気にせずに答えた。
「蓉ちゃんに言われた事やってみたよ」
「へぇぇ……」
ガタンッと椅子に座り、机越しに乗り出してくる。
クールな蓉ちゃんが台無しだよ、と思うけれどそれも口にしない。
「んで? どうなった?」
「……んー」
野次馬根性に火を焚きつけられたらしい蓉ちゃんは、更にグッと体を乗り出す。
「殴られたか? 嫌われたか?
まぁどっちにしても、その表情だと良い方面の反応は無かったみたいだな」
「うーん・・」
「慰めてやろうか」
「やだっ」
ブンブンと頭を振り、蓉ちゃんの言葉を断固として拒否する。
何たって・・蓉ちゃんは類稀なる〝面倒くさがり〟なのだ。
オーちゃんも若干その部類に入るのだけれど……彼はどちらかというと、興味が無いことに対して動かないだけだと思う。
だから、そんな蓉ちゃんにここで『はいお願いします』などと言ってしまったら……
単なるパシリをやるだけの存在に俺は成り下がるだろう。
「なら、何があったか言ってみろよ」
「……んー」
「ん?」
「殴られも、嫌われもしなかったし怒られもしなかった。……けど、」
「けど?」
「殺されかけた」
「へぇ・・なら良かったな」と呟いた後で、蓉ちゃんは突然ガタンッ!と立ち上がる。
「はァ? 何でそれでお前、少し嬉しそうにしてんだよ」
「えっ・・おれ嬉しそう?」
「ああ。ってか……お前サディストじゃなくてマゾヒストかよ!」
「……ちちち違う!!」
慌てて否定するものの、額に手を当てて「絶望だー」なんて言っている蓉ちゃんは、俺の言葉なんて聞いていやしない。
何だか多大なる誤解を蓉ちゃんがしてしまいましたが。
……俺の決心は最初に言った通り変わりません。
――・・俺にとっての友達とは〝家族以外の守らなければならない対象である〟と。
END
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