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……と、そんな事は良いのだ。
自分の頭の中の考えを切り替え、俺は再び机に肘をついて思案する。
そんな俺の目の前に、突然フッと影が差した。
「こう、何を考えてるんだ?」
「え? あー・・蓉ちゃんか」
「蓉ちゃんか、って何だよその残念そうな言い方。失礼だな」
「まぁま」
ムスッと口を尖らせる蓉ちゃんを宥め、俺は目の前の席に座るように手を振る。
それにコクリと頷いて、蓉ちゃんは椅子にストンッと座り込んだ。
「しかし珍しいな、能天気なこうが悩むなんて。
……で? 俺は繊細な感情を読むのは苦手だからな。敢て聞いてやる。何を悩んでる?」
「蓉ちゃん。それって・・おれの事心配してくれてんの?」
「ばっ!! 違う……ッそうじゃなくて」
「うん?」
「お前が大人しいと何か・・調子狂う」
少しだけ顔を赤くして呟く蓉ちゃん。
何だかんだで、蓉ちゃんはおれよりも素直だと思う。
そして、真っ赤な顔を隠すこともせず(多分気付いていない)蓉ちゃんは俺に向き直った。
「んで? 話だけなら聞いてやるから話してみろよ」
「……むー・・」
「何だよ。話しにくい事かぁ?
も、し、か、し、て……夜の事情だったり」
にやぁと笑う蓉ちゃんは、今の自分の表情がイケメン台無しだって事分かっててやって居るのかな。
思わずそれを指摘してみたくなったけれど……
これ以上話をややこしくする訳にはいかない、と思いとどまるり、おれは本題を口にした。
「いや。そういう方面じゃないよ」
「ふぅん?」
「……何ていうか」
「何ていうか?」
鸚鵡返しに聞き、蓉ちゃんは目の前の机に肘を付く。
目は真剣そのものだから、多分茶化さずに聞いてくれているのだろう。
その瞳から視線を逸らし、おれは蓉ちゃんの後ろ側の窓から見える隣校舎へと目線を向けた。
そこには多分、おれに見られてる何て気が付いて居ないだろう……ちぃ子が屋上に座り込んでいる。
(ちぃ子はいつだって無表情だもん。
耐えている訳でもなく、嘆いている訳でもなく。本当に感情が〝無〟なんだ・・)
だからこそ俺はとある事が心配でならないのだ。
「蓉ちゃんは、女の子に〝痛い〟って思わせたい場合、何をする?」
「――・・ハァ? 何だお前。いつの間にサディストになったんだ」
彼女にはもしかしたら痛覚さえも無いのではないかと。
だからそれを確認してみたいと思った。彼女が傷を負う前に。
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