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なんせ、この学園はいかなる存在であろうとも受け入れてくれる素晴らしい場所だ。
しかし半面、酷く危険で彼女がいくら強くあろうとも抗えぬ場面が出てくるかもしれない場所でもある。
(ちぃ子が強いって事は十分分かってるけどさ)
けれど感情の無い彼女にもしも痛覚が無いのだとしたら――。
きっとちぃ子は傷付く事さえ厭わない。寧ろそれでも無感情で居るだろう。
そしたらちぃ子は……死んでしまうのだろうか。
「まぁ……
お前が嗜虐心に目覚めたってぇなら別に俺は止めはしないが」
そんな俺の考えを遮るように蓉ちゃんが溜息を付く。
「相手が女なら……んで、俺がお前だったら。変装して噛みつく」
「……噛み付く?」
「ああ。丁度良い事に素晴らしく尖った犬歯があるだろ?」
「んまぁ……」
本来は稲荷神の末裔ですから。と心の中で付足して、俺は蓉ちゃんを見上げた。
「あとその変装っていうのは?」
「これからの学園生活を考えると、バレるのはまずいだろ」
「あぁ。なるほど」
エヘンと胸を張る蓉ちゃんは流石と言えよう。
そして丁度良い事に、俺は〝変装〟がかなり得意だ。……正直、変装と言えるのかどうかは不安だけれど。
「んー。成功するかなぁ?」
「普通は99パーセント殴られて嫌われて終わりだな」
「……蓉ちゃん酷いよ」
「ハハハ。まぁ、どうしても気になるなら、やってみるこった」
そう言って笑うと、蓉ちゃんは「んじゃ」と席を立つ。
「そんじゃ俺は行くわ。
……実行して成功したら俺にも報告しろよ?」
「了解ー」
「おう」
そう言って蓉ちゃんは片手を上げた後で、素早く駆けて行ってしまった。
しかし、変装か――。
ふむと俺は思案し、そして右腕の時計を見つめる。
「出来ない事は無いんだけどなぁ」
しかしあの姿は苦手なのだ。
良い思い出が無いから、というのは元より……
明らかに人とは異なる為どうにも好きにはなれない。
しかし・・この腕時計に封じ込められた力を解放した時になる姿こそが、自分の本来の姿なのだという事も知って居る。
「まぁアレでばれる事は無いだろうし」
うん、と頷いて俺は再び隣校舎の屋上へと目線を向けた。
そこでは未だに空を見つめてボンヤリとするちぃ子の姿が、俺の目に映り込んでいた――。
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