牙のあと

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++ 屋上へ続く階段を上りながら、腕時計のスイッチを軽く押す。 すると俺の髪は金色に一瞬で染まりあがり・・ 縛っていた髪をほどくと、するすると腰辺りまで伸びて行った。 誤魔化していた身長は若干高くなり、少し緩めに作ってあった制服がピッタリと体に馴染むようになる。 そして、緑のネクタイを外しポケットに押し込んでおいた赤いネクタイを取り出しそれを首に巻きつけた。 「あとは眼鏡でもしておけば完璧・・、かな」 ここで少し俺の容姿について説明しておくとしよう。 妖狐の中でも白狐の一族と呼ばれていた俺たち一族(白い髪に金色の瞳という特徴を持つ)。 しかし稀に俺の様な容姿の子供が生まれる事があった。金色の髪に赤い瞳の。 以前まではそれを凶兆の証として忌み嫌われていたのだが、今では色々とあって・・結果特に問題なく暮らせている。 けれど俺の様な容姿を持つ妖狐は、その身に余る力を10歳を越えた頃に得る事になる。 過去の金髪紅目の妖狐は、その時に息を引き取ってしまったらしいのだが――・・ 何代か前の族長の計らいによって、今俺がしているような力を別の場所へと流す装置が開発された。 それによって俺は、普段狐火を出す程度にしか妖力を出せなくなったものの・・ 腕時計に込められた妖力を使うことにより、様々な技を出せるようになった、という訳だ。 しかしそれを使う際、大きな魔法や妖術を発動させると中に込められた妖力が逆流する為…… 一時の間、俺の体は元々の姿に戻ってしまうという副作用があった。 しかも気の流れさえも変わる為、雰囲気さえも別人になるというのだから中々に同一人物だと分かって貰えない。 ――が、今はそれを逆手に取らせて貰うとする。 (まぁ……  ちぃ子に今バレなくても、一緒に任務に行ったら必然的にバレるんだけど  どうやって誤魔化すかなぁ) 今の所、任務に行く事もないし幸い誰にもばれて居ないのだが。 『確認するだけ確認するだけ』と俺は自分自身を宥めてポケットに入れていた眼鏡をかけた。 途中、オーディン君とすれ違い不審な目で見られたが(多分記憶にない生徒だった為)そしらぬ顔をしてスルーする。 多分ばれていない。……多分。 あの人の場合、俺の思考まで読んで居そうで本気で怖い。 しかし今はそれを気にして居る所ではない。 急がなければ、俺は銀髪に戻ってしまうのだ。 慌てて階段を駆け上がり、俺は屋上の扉を開けた。
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