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「……ハァッハァッ」
多少息が荒くなってしまうのは許して欲しい。
目の前に広がった青空と……それから不思議な雰囲気を纏うコンクリートの壁。
先(さっき)隣校舎から彼女が見えた場所へと視線を向けると・・ちぃ子は同じ場所に微動だにしないで座り込んでいた。
その瞳には何の感情も無く。
突然入り込んで来た俺なんぞにも興味無いのか振り向く事もない。
ああ、いつものちぃ子だ。とそう思うのと同時に……
彼女は本当に自分自身の身の回りの事がどうでも良いのではないかと不安になる。
じぃちゃんに貰った革の靴(鞄の中に仕舞われていた)を鳴らし、俺はちぃ子の居る場所へと近付いて行った。
そして、ちぃ子が居る一段高くなった場所の下まで来ると、そこで足を止めて彼女を見上げる。
ゆらり・・ゆらりと足を揺らす彼女は、それでも俺の存在など無いかのようにこちらを見ない。
しかし敢てジッと彼女の事を見つめていると……
暫らくして、ちぃ子の黒い瞳が俺へと向けられ『何か用?』とでも問いたげに歪められた。
言葉にしないところがまた、彼女らしい。
ふっと微笑んで、俺はちぃ子の横を指差す。
「隣行って良い?」
「………」
「行かせてくれないなら、俺・・ずっと此処で見てるよ?」
「………」
それでも沈黙するちぃ子の姿に、俺は思わず噴出しそうになる。
この反応はどうやら〝俺に対して〟だけではなく、誰にでもそうらしい。
だけれど俺は他の誰かではなく、彼女を知っている藤光 狐兎苺なのだ。
いずれ面倒くさくなって受け入れてしまう事も実は理解している。
(俺ってずるいなぁ)
しかしそれもまた、今は利用させてもらおう。
一人で心の中で納得していると、暫らくして黒い瞳が面倒くさそうな物を見るように細められた。
「勝手にすれば」
いつも通りの台詞。彼女らしい、素っ気無い言葉だ。
けれどそれが今の俺にとっては逆に不安になるのだが。
そんな不安を心の中に仕舞いこみ、俺はニッコリと笑った。
「ありがとう」
「………」
感謝の言葉に何の反応も示さないが、俺は構う事無く横に在った梯子を上って行く。
そしてちぃ子の横へと同じ様に腰を下ろした。
俺が座る瞬間、ほんの少しだけ俺を伺う様にちぃ子は見つめて来た。
……が、俺が視線を向けると何事も無かったかのように空へと視線を戻してしまう。
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