牙のあと

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「空を見て居るのは楽しい?」 そんな鼬ごっこを若干楽しく思いながらもちぃ子へとそんな事を聞く。 すると・・ちぃ子は常に持ち歩いている刀――・・『マリア』へと視線を向けて呟いた。 「真っ黒な私の目には、太陽がマリアみたいに見えるの」 「……白くて真っ白で眩しい?」 「貴方がそう思うんなら……そうなんじゃない?」 「なら俺は勝手にそう思っておく」 「そう」 勝手にして、とでも言いたげにちぃ子は口を閉じた。 そして再び空へと視線を向ける。 その彼女の横顔を膝に肘をついて見つめ、俺は問う。 「一つ聞いて良い?」 「………」 「感情が無いってのは分かる。  だけど……痛覚は? 痛いって思う感情はあるの?」 「二つよ」 「え?」 「貴方の質問は二つよ」 「えっ……あ、あぁ…」 確かに自分の言葉を思い返してみれば、二つ聞いていた。 痛覚があるのか。そして在るのであれば痛みという感情があるのか。 その俺の質問には何も答えずに、彼女は黙り込んでしまった。 やはりここは、蓉ちゃんの言っていた強硬手段しかないか。 ふむ、と唸り俺は決心した様にちぃ子に向き直る。 「ね、ね。ちょっと手・・貸して?」 「……嫌」 「何もしないよ」 そう安心させるように微笑んで見ても、彼女は俺に手を差し出したりはしない。 ……まぁ分かって居た事だから構わない。 ちぃ子はただ、俺が困ったように眉を顰めるのを見つめているだけだ。 そんな彼女の手を了承無しに持ち上げ、無感情に俺を見つめるちぃ子の瞳を見つめ返した。
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