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私は、警察に連れてこられてすぐに取り調べを受けていた。
「だから、私は殴られていた子供を助けようとしたんだよ」
「まだ言うか。お前が銃を突きつけた相手が、万引き犯の子供を捕まえた途端その子を殴ったと言っているんだ」
「その男の言葉だけを信じるのか? 公衆の面前だったんだ、少し聞き込みすれば私はやっていないとすぐにわかる」
「証言ならある。お前がものすごい形相で子供の胸ぐらを掴んだとな」
「結局殴ったかに関してはわからないじゃないか」
連行されて二時間ほど経っただろうか、さっきから同じような問答の繰り返しだ。私がやっていないと言ってもあちら側は一向に信じてくれない。
「そもそも、お前は罪を認めたから連行されたんじゃないのか!?」
「やましい事がないから大人しくついてきたんだよ」
「おう、やってるな」
取り調べ室の扉が開き、そこから中年の男が顔を出す。
「む……」
「し、署長!?」
その男には見覚えがあった。白髪混じりの栗毛に中年太りの体。私にとってはあまりいい思い出のないシルエットに思わず顔をしかめる。
「で、どうだい。吐いたか?」
「いえ、さっきからやっていないの一点張りで」
「そうだろうな。こいつはそう簡単に警察なんかに屈したりはしないからな。そうだろう、モカ」
私の名前を呼ぶ。私が無視を決め込んだのに気付いたか、視線を警察官に向ける。
「それにな、こいつ、やっぱりやっていないんだ」
「は、はあ? といいますと?」
「被害者が目を覚ましてな、話を聞く前にいろいろ喋ってくれたよ。俺を殴ったのは男だってな」
ああそうだ。あの子供の事を忘れていた。当事者で被害者のあの子供なら、本当の事を言うに決まっているのだ。
「で、ですが、こいつにはもう一つ、銃の不当所持が……」
「お前、こいつの荷物調べたか?」
「え、い、いえ」
「モカ、お前も荷物に火器携帯許可証があると言え」
「あの押し付けられた物か? 言ったけど、信じてもらえなかったな」
火器携帯許可証。簡単に言えば、銃を携帯してもよいというのを証明する物だ。当然、一般人が貰える物ではない。
「ふむ、一度職務怠慢を注意した方がいいのかもしれんな。まあいい、荷物を調べろ、許可証があるはずだ」
「はっ!」
警察官は敬礼をすると、そそくさと取り調べ室から出て行った。
「……さて、久しぶりだな。モカ」
「少し太ったか? ジョン」
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