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男が私の正面に座る。太った体のせいか、椅子が鈍い音を出したが、男はそれを全く気にする様子は無い。
ジョン・アーリィ。この町の警察署の署長だ。今では自ら現場に出ることはないものの、全てを見透かすような鋭い眼光はとても中年男性のそれとは思えない。
「相変わらず困った人間を放っておけないんだな」
ジョンがタバコに火を点ける。
「そうじゃない。人を困らせる奴が嫌いなだけさ」
煙を追い払いながら言うと、ジョンはタバコを上に向けてふかしはじめた。
「変わらないな」
ジョンが言う。
「なにがだ」
「お前だよ。人を困らせる奴が許せない。十年前にお前が言った言葉だ」
「……そんな事言ったか?」
十年前。私はこの町の路地裏で保護された。
薄汚れた服、やせ細った体、持っているのは小型の銃のみ。傍らには十数体の死体。
……私が殺した人間だ。
理由はそいつらが強盗集団だったからだ。こいつらのせいでたくさんの人が迷惑をした。こいつらのせいでたくさんの人が悲しんだ。そんな事を考えていたら、いつの間にか銃を撃っていた。
ジョンの言った事は、多分その時にでも言ったんだろう。「異能者であるお前を保護し続けるのは大変だった。施設にも送れない、身寄りもない、いつ暴れ出すかもわからない。俺がどんだけ頭下げたかわかるか?」
「知らん、どうでもいい」
私は保護されて警察署の寮に入れられ大人に囲まれて生活をした。半年間ぐらいは私を異能者だと避けたり、邪険に扱われたりしたが一年もすればたまに射撃訓練に参加させてくれたり、読み書きなんかを教えてもらったりした。
「懐かしいな、四年前か?」
「そうだな。みんな娘が嫁いで行ったみたいな顔して泣いてたっけか」
十八歳になった年、私は警察署を出た。精神的にも成長し人を殺すような事も無いだろうと判断されたからだ。
その際に渡されたのが、例の許可証だ。
「結局、あの許可証は何だったんだ?」
「んー? それはな」
ジョンの言葉の途中で取り調べ室の扉が開かれ、警察官が入ってきた。
「失礼します。モカ氏の荷物から火器携帯許可証を発見いたしました」
「ん、そうかご苦労さん。モカ、帰っていいぞ」
ジョンは立ち上がり、取り調べ室を出ようとする。
「おい、まだ許可証について聞いてないぞ」
「あー、それについてはまた今度な」
「あ、おい、待て」
私の呼び止める声を無視してジョンは部屋を出る。
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