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「ではな、署長によろしく伝えておいてくれ」
「はい」
ここに長居する理由はない。というか、本来の目的である買い物のまだ済んではいないのだ、長居している暇はない。
私が階段を下り、踊り場に出た時。
「ねーちゃん!」
下から声が聞こえた。少年の幼い声だ。そして、私はこの声に聞き覚えがあった。
「待ってくれよ!」
例の子供だった。大方警察の手にも余って釈放されたのだろう。それよりもこの子供はここでずっと待っていたのだろうか。
「どうした、異能者」
「…………!」
異能者と言った瞬間、はっきりとした殺意が私に向けられた。やはり、自分を孤児にした異能という力にどこか劣等感を持っている。そんな様子だった。
「冗談だよ。私も異能者だ」
階段を降りる。階段の下で待っていた子供は、私が最後の一段を降りるなり私を見上げて言った。
「助けてほしいんだ」
「断る」
「まだ何も言ってないだろ!」
「金はやらんし、食べ物もやらん。他を当たれ」
「だからちげーよ!」
子供の語気が発言のたびに強くなるのがわかった。それほどまでに必死に、そして警察ではなく私に頼むような事情なのだろうか。
「……どちらにせよ、断る」
面倒事はなるべく避けたい。ただでさえ今日はこんな目に遭っているのだ。これ以上何かに巻き込まれるのはごめんだ。
「頼む!」
頭を深々と下げられる。別に子供に頭を下げられても困るのだが。
「断る。私は探偵じゃないんだ」
子供に構わず出口へと歩き出す。この子供がどんな事情を抱えているのかなんて知らないし、知ったことではない。私はそんな人間に手を差し伸べるほど優しい人間ではない。
「おい、離せ」
子供が白衣の袖を掴む。
「…………」
構わず歩く。が、子供は踏ん張る。このまま歩ければよいのだが、子供のくせに思い。
「おい」
無言。私が話を承諾するまでこうしているつもりだろう。だが私も暇ではないしいつまでも温厚ではない。さすがに少しいらだちを感じている。
「……おい」
無言。
「離せ」
無言。
「いい加減にしろ、私は急いでいるんだ」
無言。
「頼むから離してくれ。少なくとも私より頼れる人間なんていくらでもいるだろう」
無言。
「早く離せ」
無言。ここが限界だった。
「いい加減にしろ子供!」
子供の体が跳ねる。そして驚いたのか、袖を掴む手が少しゆるんだ。
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