EP.1「プロローグ」

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すかさず子供の手から白衣の袖を引き剥がす。 「いいか、私はお前の用事に付き合えるほどお人好しじゃないんだ。ここには頼りになる警察官がたくさんいる。そいつらに頼んでくれ」 「みんながさらわれたんだ!」 今度は子供が叫ぶ。感情をむき出しにした叫びは広い警察署内に反響する。 反響からの沈黙の後、私は子供が何を言ったのかを聞き返した。聞き取れなかったのではない、確認をしたかったからだ。 「みんなが……みんながさらわれたんだ」 やはりそうだった。聞き間違いなどではない。子供は確実に「さらわれた」と言った。 「……さらわれたのは、お前と同じくらいの歳か?」 子供は頷き、続ける。 「でも、ほとんど俺より年下なんだ」 「警察には言ったのか?」 今度も頷いた。 「言ったけど、確証がないと捜査もできないって言われた」 ……そうか、そうだったのか。この子供は既に警察に頼っていたのか。それでも相手にしてもらえず、私に頼ったのか。 わらをも掴むような気持ちで、私に懇願したのだろうか。 「さらわれた子供たちは……」 この問いを、果たして言うべきなのか私は一瞬迷った。聞く意味があるのか、知ってどうするのか、私は迷った。 そして、聞いた。 「さらわれた子供たちは、異能者か?」 子供は黙って頷いた。異能者という言葉に嫌悪感を示しながら、それでもしっかりと頷いた。 「……わかった。その子供たちを助け出せばいいんだろう?」 言った瞬間に子供の顔が晴れた。希望に満ちた、とても眩しい顔だ。 「ああ! えっと、ありがとうねーちゃん!」 「礼はいい。それと、私はモカだ。お前は?」 「ニ、ニック!」 ニック。果たして誰がつけた名前なのか。いや、今はそんなことはどうでもいい。 「よろしくな、ニック」 今は誘拐犯を捕まえる。それが最優先だ。 人を困らせる奴が許せない。確かにその通りかもしれないと考えると、少し顔がにやけた。
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