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すかさず子供の手から白衣の袖を引き剥がす。
「いいか、私はお前の用事に付き合えるほどお人好しじゃないんだ。ここには頼りになる警察官がたくさんいる。そいつらに頼んでくれ」
「みんながさらわれたんだ!」
今度は子供が叫ぶ。感情をむき出しにした叫びは広い警察署内に反響する。
反響からの沈黙の後、私は子供が何を言ったのかを聞き返した。聞き取れなかったのではない、確認をしたかったからだ。
「みんなが……みんながさらわれたんだ」
やはりそうだった。聞き間違いなどではない。子供は確実に「さらわれた」と言った。
「……さらわれたのは、お前と同じくらいの歳か?」
子供は頷き、続ける。
「でも、ほとんど俺より年下なんだ」
「警察には言ったのか?」
今度も頷いた。
「言ったけど、確証がないと捜査もできないって言われた」
……そうか、そうだったのか。この子供は既に警察に頼っていたのか。それでも相手にしてもらえず、私に頼ったのか。
わらをも掴むような気持ちで、私に懇願したのだろうか。
「さらわれた子供たちは……」
この問いを、果たして言うべきなのか私は一瞬迷った。聞く意味があるのか、知ってどうするのか、私は迷った。
そして、聞いた。
「さらわれた子供たちは、異能者か?」
子供は黙って頷いた。異能者という言葉に嫌悪感を示しながら、それでもしっかりと頷いた。
「……わかった。その子供たちを助け出せばいいんだろう?」
言った瞬間に子供の顔が晴れた。希望に満ちた、とても眩しい顔だ。
「ああ! えっと、ありがとうねーちゃん!」
「礼はいい。それと、私はモカだ。お前は?」
「ニ、ニック!」
ニック。果たして誰がつけた名前なのか。いや、今はそんなことはどうでもいい。
「よろしくな、ニック」
今は誘拐犯を捕まえる。それが最優先だ。
人を困らせる奴が許せない。確かにその通りかもしれないと考えると、少し顔がにやけた。
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