序-迷い子の咄

2/4
前へ
/56ページ
次へ
 光を目指し歩いていた佐紀子の目の前に広がったのは、広大なすすき畑だった。 「………え?」  佐紀子は呆然とする。  すすきは開けた土地を埋め尽くすように生い茂っており、風が吹くたびに互いに擦れあってかさかさと音を鳴らした。  その土地の先には街が見えた。だがその街の雰囲気や建物は現代日本のそれでなく、中国の秦や唐の時代を思わせる作りだった。街の中央には大きな塀で囲まれた屋敷があり、屋敷は他の建物とは比べものにならないほど大きかった。  その敷地の中には黒い塔が建っていた。佐紀子は中学の修学旅行の時に見た五重の塔を思い出す。黒い外壁に赤い屋根の五重の塔は不気味な雰囲気を漂わせていた。 「なに…これ…」  山の中とは考えられない景色。佐紀子はまるで夢の中にでもいるような気分だった。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加