序-迷い子の咄

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 ふと、すすき畑の中で何かが動いた。見るとそれは人の形をしていた。 (人だ!)  助かった!と佐紀子は人影に向かって走りだした。 「すみません!あの、すみませーん!!」  佐紀子の声に気付いたのかその人影はゆっくりと振り返った。 (あれ…?)  佐紀子は違和感を感じた。  振り返った人影は少し年老いた男性だった。身長はやけに大きく2メートル近くあるように見える。そしてそれ以上に特徴的だったのは彼の真っ青な肌だった。文字どおりの、青。空のような、海のような青い肌。そして額の間から、髪をかき分けてのぞく一本の―――――…… 「ツノ……?」 佐紀子が青い男の目の前にたどり着いたその時。 「ニンゲンだ!ニンゲンの女がいるぞぉ!!!」 「え…?」 青い男が叫んだ。  佐紀子が驚いて動ずにいると男は腰に差していた大きな刀を抜き取り、振り上げた。  (えっ、なに…これ……)  男の狙いは間違いなく自分だ。  突然の出来事に佐紀子は何が起こったかわからなかった。ひとつだけ理解できたのはこのままでは自分が殺されてしまう。  逃げなければ、と佐紀子の本能が警鐘を鳴らすが逃げようにも脚が地面に縫い付けられたように動かなかった。 (しんじゃう) 佐紀子は頭の中で呟いた。
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