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年は改まり、元治元年。
厳しい冬を乗り越え、季節は春へと移り変わる。
屯所の庭の桜も今が盛りと咲き誇り、その薄紅色の花を風に揺らしていた。
「うーん。いい天気ですね?斎藤さん」
ぐぐっと伸びをする沖田。
今は市中見廻りの最中だと言うのに、暢気な奴だ。
浅葱色の羽織を靡かせて道を歩けば、耳を澄ませなくとも陰口が聴こえてくる。
「また壬生狼や」
「いややわぁ。東夷なんて早ういなくなればえぇのに」
悪いが居なくなる予定はないな。
等と相槌を打ちつつ、目線は町中を注意深く動いていた。
前の政変で京を追われた長州だが、最近はまた不逞浪士が増えている。
不穏な空気を感じずにはいられぬのだ。
「いい天気。お花見日和。お花見と言えばお団子です。
……という訳で、お団子買ってきますね!」
「……待て」
させるか!
何が“という訳で”だ。
お前、ここ数日は毎日甘味処に通っているだろう。
私を道連れにして。
今にも駆け出しそうな沖田の襟首を掴んだ時、前方から怒声が飛んできた。
「あぁん!?お前がぶつかってきたんだろうが!」
喧嘩か。
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