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満月の光が永遠亭を照らしている。もっとも照らされているのはここだけではなく竹林全体にだと思うのだが、こうも目につくと中々良い印象は受けない。永遠亭の一室に案内された有は一人、縁側で満月を眺めながら考えていた。
‘幻想’
言葉の意味としては、現実ではないモノ・現実では起こりえないモノ・ファンタジー。つまるところ、人間の空想上の産物出しかないのだ。だが、その世界が彼の目の前に広がっている。第一に出会った藤原妹紅は、有の前で炎を操って見せた。本当はそれも<幻想>という言葉で片付けられるのだが、実際問題として有はその<幻想>を認めざるを得ないのだ。それは何故か、彼が彼自身の眼ではっきりと<藤原妹紅が炎を操っている瞬間>を見てしまったからだ。
つまり、<幻想>を認めるという事は<現実>になる事だ。そして彼が<幻想入り>したという事は、‘水無瀬有’という人間はファンタジーの一種になり、<幻想郷>という世界に<現実入り>したという事になる。
「幻想郷・・・か。」
「有?部屋に入りたいのだけれどいいかしら?」
突然、襖の向こうから声が聞こえた。声質からいって輝夜さんだろうと思った有は1つ返事を返す。襖が開かれるとそこには予想した通り蓬莱山輝夜の姿があった。輝夜は部屋に入ると有がいる縁側に足を運んだ。
「何をしているの?」
輝夜が有の隣に座る。微妙に2人の間に間隔はあったが今日初対面という事を考えると近いのかも知れない。
「月が綺麗だなーって思いまして。」
「嘘ね、そんな呑気な事を考えている様には見えない顔よ?」
「・・・そんなに変な顔してますか?俺。」
「変というか、怖いわね。」
「すみません、まだ自分の身の上に整理がつかなくて。」
「永琳から話は聞いたわ。大変だったわね。記憶喪失で幻想入りしちゃうなんて。」
「永琳さんの前では強がって見せて見たんですけど・・・輝夜さんがここにいるという事はミヌカレテるんですよね?」
「当たり前じゃない。永琳にそんなの通用しないわ。患者の心情や表情を読み取ることこそが一流の医者ですもの。」
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