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その後、普通にこれまで過ごした時と同じ様に皆で食事をしてまた自分の部屋に戻ってきた有は、再び縁側に座り考え事をしていた。さっき、輝夜が言っていたを思い出していた。
永遠亭の一員としてここに住む、幻想郷の住人となる。それはつまり、自分が過去に住んでいた世界を忘れ、過去自体を消し去り、新しい世界で新しい自分として生活を送る事。それはそれでもいいのかもしれない。藤原妹紅や、蓬莱山輝夜などまだそれほど多くの人と関わった訳ではないが、その人柄に触れ有はこの世界で生きるのも悪くないと思い始めていた。
「どうしたものか・・・。」
「・・・何か考え事かしら?」
突拍子もなくその声をは聞こえ、目の前にはいつか見たスキマ、いつか見た少女の姿だった。
「ええっと・・・八雲・・・紫さんですよね?」
「大正解、よくわかったわね。」
「そりゃわかりますよ、あれだけインパクトの強い初対面は初めてですし。」
「あら、あなたは記憶喪失じゃなかったの?その物言いだと、これまでにも様々な人物に会ってきた様に聞こえるのだけれど。」
「ええ、少しだけですが記憶が戻った感じなんですよ。」
「”感じ”?」
「はい、そうですが?」
有は首を傾げる。
「・・・そう、まあどうでもいいけど。ところで、昼間の訓練は凄かったわね。」
「見てたんですか?」
「当たり前じゃない、外来人を観察する事は私の仕事の様なものなの。この幻想郷にとって害をもたらす者なのかどうかを、ね。」
「もし俺がそうであったら?」
「即刻あなたを殺すわ。全力で、
全身全霊をもって。」
「・・・・・・・。」
言葉が出なかった。自分が悪者で八雲紫によって殺される事を恐ろしく思ったわけではなく、彼女の気迫、殺気。それが伝わったからだ。
「今のところ、あなたはそうではないと私は判断しているわ。だから安心しなさい?」
先ほどの真面目な表情はどこへやら、すぐにあどけない少女の笑顔に戻った。
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