第1章

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 柔道部の机の周りには俺を除いても3人新入生らしい人がいた。全員の後ろ、もちろん俺の後ろにも柔道着の男が待機していて逃げられなくなっている。  ……なんだこの強制力溢れる勧誘は。さすが大学の自由さとでも言うべきなのか……。正直、勘弁してほしい。  なんてことを思いながら仕方なく待っていると、部長らしいすすけた、しかし力強さを感じさせる柔道着を羽織った暑苦しそうな男がやって来る。そして机に手をバンとたたき付けて注目を集めた後、喋りだした。 「新入生諸君、よく我等が柔道部の説明を聞きに来てくれた! 今、柔道部部員不足に悩まされている。これを解決する為にも是非とも入部して頂きたい! 部員が少ないからといって心配は要らんぞ! 人数、実力不足はお前らの後ろにおられるOBの先輩方と協力も交えながら、どんな貧弱脆弱無力なヤツでも立派なスポーツマンにしてみせる所存だ!」  ……情熱とやる気と根性溢れる熱い説明でたっぷりと話してくれた。まだ4月だってのにあまりの暑苦しさに逃げ出したくなった。 「――これで俺の話は終わりだ! さぁ、誰か我々と共に武道の頂点に立ちたい者がいたら残ってくれ! 他は立ち去ってくれていいぞ」  最後に部長はそう締めくくった。途端、後ろの、おそらくOBから無言のプレッシャーがかかりなぜか立ち上がりにくい状況が出来上がった。  しかし俺は若干背後からのプレッシャーを感じながら、迷い無く立ち上がる。  俺はバイトして学費を稼がないといけないんだ。部活なんかしている隙はない。  俺が立ち上がったことに釣られて空気に飲まれていたらしい他の3人も立ち上がる。部長の表情が曇り軽く舌打ちが聞こえた気がした。 「……入部しないというならそれなりの理由を言ってもらおうか」
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