第一章『箱庭より』

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「ライド」 『カメンライド・ライオトルーパー』  瞬間その身体はライオトルーパーの姿を纏い、戦闘の準備を完了させる。  仮面の力、それを纏う概念装甲、それを己が体に宿す事をカメンライドまたはライドと呼んだ。  迷路のような通路を進み、案の定突然の会敵を果たす。  相手はまだ概念装甲を纏ってすらいない、カメンライドすらしていない状態であった。  すぐさまバックルを開き、カードを挿入しようとする、が。 「分かってねぇなあ、差蛇穴」  なんの迷いもなく、墨間は間合いを詰め、差蛇穴のカードを持つ手を片手で押さえ込んだ。 「状況に応じた戦闘なんて、この視界じゃ無理なんだよ」  何とか振りほどこうと試みるが、普通の人間とカメンライドした相手では力に差がありすぎる。  一撃、墨間はその何の守りもない腹筋に空いている拳を捩じ込む。 「!!!」  本来戦闘中にとるべき変身後状態なら大した痛手ではなかっただろう、だがカメンライドを封じられ、生身で受ける攻撃は気が遠退く程の痛みだった。 「覚悟も足りてねぇ、それぐらい気合いで耐えてみやがれ」  苦痛で歪む表情に激を飛ばしながらも、墨間は更に同じ場所に拳を打ち込んだ。 「あっ!が、……っ!!!」  そこで漸く拘束を解いてやる、足に上手く力が入れられないのだろう、差蛇穴は膝からその場に崩れ落ちて行く。 「どうした、差蛇穴、敵は目の前だぜ」  苛立ちと共に、吐き捨てるように言葉を浴びせる。  そんな中、乱れた呼吸を繰返しながらも、差蛇穴はカードを持つ手を動かしていた。  ゆっくりと、何のフェイクも罠もなく、もはや朦朧とさえする意識と視界のなかで、カメンライドを諦めていなかった。  そんな相手を止めるのが、難しい事であるはずがない、見逃して機会を与えて良いはずもない。 「無理すんなよ」  容赦なく、その手を踏みつける。 「!!!…………!」  恐らく手の骨は砕けただろう、そんな音が響いて、差蛇穴の意識を痛みが鮮明にさせる。 「お前の負けだ」  痛みに呻く差蛇穴の頭を蹴り、昏倒させる。  その手からこぼれたカードを掴み、それを自分のホルダーに入れる。 「貰っておいてやるよ」  足で差蛇穴を転がし、ホルダーからカードを奪う、カードは同じ規格であるため使い回せるのだ。  なおも苛立つ墨間は差蛇穴をその場に舌打ちし、坂下求助を罵り、探し始める。
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