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何だか複雑な、それでいて単純な本心の言葉だった。
「嫌ではあるが、選ばれないよりはマシか」
僕がそう返すと、求助は椅子の前脚二本を浮かせて、後ろに仰け反った。
「まあなあ、でも嫌なんだよな」
そのままバランスをとり頭の後ろで手を組むと、足をテーブルに乗せる。
「元はどうなんだよ、もし同じ隊になっても死なない自信あるのか?」
まるで自分は死ぬかもしれないと恐れているような、そんな物言いだ。
「さあ、自信はどうだろ、でも、一応覚悟はしてるけどね」
噂はデマかも知れないのに、いちいち真剣に考えるのも馬鹿馬鹿しい。
しかしどちらにせよ死ぬかもしれないのは本当の事なので、それについてなら対応は出来る。
「覚悟ね……」
この狭い世界で僕達は、あるものを目指して毎日を生きている。
それは死と隣り合わせで、しかしそれでも僕達は、それを目指さない訳にはいかなかった。
それを選ばれない事は、結局死を選ぶことと同じ、という状況で生きていた。
「なんで生きるためにやってるのに、死ぬ覚悟してんだよ」
そう言って求助は笑っていた。
「さあね、ただ僕だって死にたいわけじゃないさ」
そう笑い返すと求助も、そりゃそうだと相づちをうった。
そうして夜が更けていった。
†
柿本が斜篠を待つ、ここは会長室である。
約束の時刻はとうの昔に過ぎ去って、柿本は途方にくれるばかりだった。
「彼には本当に、伝えてくれたんだね?」
もう何度も柿本にそう尋ねてきたのは鍋島鉄路、会長という役職にある男だ。
「本当に……」
彼はもはや柿本を見てはいなかった、そして柿本も会長を見てはいなかった。
会長こと鍋島は窓の外を眺め、柿本は部屋に唯一のドアのドアノブを凝視していた。
「確かに、伝えたんですがね」
そう呟かれた言葉は何処へでもなく、天井へと浮かぶだけであった。
「確かに、伝えたんですよ」
しかし事実この場に斜篠という男は来ていない、柿本はどうしたものかと立ち尽くしていた。
「仕方ない」
窓の外を眺めながら、会長は久しぶりに先程までとは違う言葉を紡いだ。
「試験を斜篠氏到着まで延期とする」
柿本は会長へと向き直り、その窓の外を眺める瞳を見た。
「と同時に各候補生に伝達、斜篠氏探索を命ずる」
会長補佐である柿本は、スーツの襟をただしてみせた。
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