4人が本棚に入れています
本棚に追加
「了解しました、試験関係者に伝えて参ります」
なんでこいつは窓の外を眺めているのか、という疑問を心の奥底へ沈め、柿本は部屋を出た。
†
試験開始時刻をとうに過ぎていたが、元と求助はその場を離れることはできず、暇潰しに言葉を投げあっていた。
辺りは試験開始を待つ者達が、他にも数十名程待機状態で存在している。
「これはどうするんだ?」
もう何度目かもわからない求助の問いかけに元は、
「さあ、先生は何処にいったのか」
と返すだけだった。
「今日はもう中止か?」
そう求助が言った時だった。
「泣き虫求助は試験が怖いのか?」
それは元が応えたのではなかった。
求助の少し後ろから投げ返された、苛立った声だった。
「中止になんかならねえよ求助、だからさっさと泣いて逃げ出しな」
何処にでもこういう奴がいるものだ、みんな色々思うところはあるというのに、他人に絡んで自分のストレスを緩和しようとする。
その声を受けて求助は立ち上がり、発言者であろう相手を睨み付けた。
「誰が逃げるかよ、お前こそビビって逃げ出すなよ」
その返しに、辺りから笑いがおこる。
二人のやり取りに辺りが呆れているのだ。
「なんだと」
と同じく立ち上がったのは墨間という、求助より体格の良い人物だった。
墨間が求助に絡むのはいつものことであった。
墨間は求助に詰め寄り、その胸ぐらを左手で掴む。
「すぐに逃げ出したくなるようにしてやる」
当然の様に右拳を握りこみ、振りかぶる墨間。
それを見ながら、求助はそれでも墨間を睨み続けていた。
「やめなさい」
いつのまにか墨間の右腕を掴む手があった。
「墨間はイライラし過ぎ、逆下も本気で相手し過ぎだわ」
その手は明らかに力強くはない、女性のそれだった。
長い金髪に青い目をした少女が、墨間と求助の間に入っていく。
「なんだよ委員長、これ以上イライラさせんなよな」
という墨間を委員長と呼ばれた少女は睨み付ける。
それはとても整った顔で、軽い怒りを表現したものだった。
「チッ……女に助けられてりゃ世話ないぜ、泣き虫求助」
墨間はその表情が嫌いだったのか、ばつが悪そうに視線を外し、同時に左手で掴んでいた求助を離し右手も収めた。
それでも睨み続ける求助に気付いた委員長が、それを当然咎める。
最初のコメントを投稿しよう!