一頁目 力と叡智

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辺りにある死体は五つだ。つまり――― (あと二匹………) 俺は辺りを見回す。しかし、何処にもキマイラの姿は無い。また上かと思ったが、上にも姿は無い。 『どうやら、先程の一匹を囮に、逃げ帰った様ですね……』 『神の腕』はそう言って籠手を動かし、歪みを指差す。そこには、必死に走る二匹のキマイラの姿があった。 「逃げた……のか?」 俺はボソリと呟く。全身の力が抜け、足はガクガク、腕はプルプルと震えている。 立つのもやっとになり、俺は血だらけの地面に座り込んだ。『神の腕』はそんな俺を見て溜息を吐いている。 『また派手にやりましたねぇ。幾らキマイラの放つ匂いに興奮作用があるとはいえ、これは流石にヤりすぎでは……』 俺は解ってる、と投げやりに言って、『神の腕』の言葉を遮る。しかし、キマイラ。奴はホントに嫌な相手だ。 戦っていると、自分を見失ってしまう。俺は血に染まったの屋上を見回し、溜息を吐く。 「あ~面倒臭ぇ……。これ元通りにすんのかよ……」 俺はヤレヤレと立ち上がり、地面に両手を触れる。そして、うろ覚えの言葉を口にする。 「え~……っと、神よ、戦によって汚れた大地を浄化し、再び美しき大地へと戻したまえ、『浄化(デトックス)』 俺が言葉を言い終わると、辺りの血が消え失せ、損傷した壁や地面が元通りになっていった。『浄化』。それは戦いによって激しく損傷した場所を、キレイに元に戻すことが出来るのだ。 ……まぁ、屋内での戦いなんてあんまりに無いから、これは滅多に使わないんだが。
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