一頁目 力と叡智

3/32
前へ
/37ページ
次へ
そして、その波動は『悪魔』が召喚された時に一番強く感じられるらしいのだが、今はまだその波動は感じられない。どうやら、どの『ゴエティア』も主を見付けていない様だ。 俺は柵に寄り掛かって安堵の息を吐く。 「ふ~。ひとまず安心だな」 俺がそう言うと、ショルダーバッグから声が響いた。 『何言ってるんですか。『悪魔』を召喚される前にゴエティア』を破壊しないと、罪の無い人間が『悪魔』になり、『上級悪魔』に喰われてしまうのですよ?』 「そんなこと言われてもなぁ……」 俺は頭をポリポリと掻く。こんな微弱な波動、感じられる方がおかしいだろ。 因みに、今喋っていたのは『神の腕(ゼルエル)』だ。ショルダーバッグに入っている『聖書』を通じて声を出している。 何でも、『天使』は『聖書』や天界の武器、『天武具(てんぶぐ)』に意識を移すことが出来るらしく、『神の腕』は常に『聖書』に意識を写しているのだ。最近は、こいつ暇人なんじゃ、と思うこともある程に。 暫く『神の腕』と談笑していると、急激に辺りの温度が下がり始めた。俺はまさかと思い、急いでショルダーバッグから『聖書』を取り出す。 すると、屋上の出入口の風景が歪み、パックリと穴が開いた。そして、その穴からのそのそと七匹の獅子が出てきたのだ。 しかし、明らかに普通の獅子の姿では、ない。山羊の蹄と蛇の尾を持ち、漆黒の毛皮を纏ったその『悪魔』の名は、 「キマイラ!!」 俺はそう叫ぶと同時に、『聖書』の真ん中の頁を開く。そこには、二頁を使って魔方陣が描かれており、空いた所には奇妙な文字が描かれていた。 俺は魔方陣に手を置き、そして、叫ぶ。 「力を持つ者にして戦を司る『天使』、その名は『神の腕』。不浄なる魔を消し去り、他を圧倒する『腕』を持つ持つ者よ。その『腕』の力を、加護を、哀れな我に貸し与えたまえ!!出でよ、『天武具』十二器、『神の腕の籠手(ガントレット・オブ・ゼルエル)』!」
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加