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私の日課は、朝起きて背伸びから始まります。
些か狭い家から出て、猫よろしく『んーっ』と背中を伸ばすのです。といいましても、私は柴犬なのですけれどね。これは中々良いものです。そして、尻尾を二、三度振り、首から全身をぶるぶると振るわせます。そうして始まる、私の1日。
――っと。あぁ、一つ忘れていました。日課とはまた違いますが、もう一つ、私の1日が始まるのに必要なことがありました。
――スンスン…
朝の空気を吸って、今か今かと母家の方を見やります。そこからは決まって、飼い主様が現れるのですが。
「おかーさん、ねぇーごはんはー?」
「はいはい、ちょっと待ってて」
ぴくり、と耳が動きました。明るい元気な声が耳に届き、直後に玄関の扉を開ける音が聞こえます。
「こぼさないでちゃんとあげてねー」
「もう、わかってるよ!――ねぇねーっ」
今までは決まって飼い主様が現れていた朝ですが、最近は違います。この――
「おはよーねぇね!お腹空いたでしょ」
私を『ねぇね』と呼ぶ、小さな女の子が現れるようになりました。
「クゥーン」
「うん、もうごはん食べたよ。だからねぇねも食べるの」
彼女は、春に咲くタンポポや夏に開くひまわりのようににっこりと笑って、ごはんの入ったウツワを私の前に置きました。
この小さな女の子は、飼い主様のお孫さん。私が始めてこの家に来た頃は三歳だった彼女も今では五歳になり、一人の弟を持つ立派なお姉さんです。
「……」
「ねぇね?」
「……」
私はじっと彼女に目線を向けたまま、お座りの状態で動きません。彼女はそんな私の前に首をかしげながらしゃがみ込むと、考えるように顔をしかめました。
「クゥーン」『何か言うことがあるんじゃありませんでしたか?』
「なんだっけ…」
ゆるりと尻尾を振って、ごはんを顎で示してから、また彼女を見上げます。すると彼女は、「あ!」と声を発し、思い出した表情になりました。
「そうだ!――“よし”!」
「ワンッ」『そうですね』
同意して一鳴きした私は、差し出されていたごはんにかぶりつきました。犬のごはんは、勿論のことながら人間とは異なります。栄養バランスをよく考えられたドックフード、それが私のごはん。
けれど、ちょっと困ったことがあります。
「ねぇね、おいし?」
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