柴犬の姉

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  そろり、とウツワに伸ばされる小さな手。 (まったくこの子は…) 私はその伸びてきた手を、食事を後回しにしてペロリと舐め上げました。 「ほわっ!?」 「クー…」『いけません』 どうしてこの子は犬のエサを食べようとするんでしょうか。私には困った問題です。私が食べているからなのか、それとも単に興味があるだけか。恐らくは、前者なのでしょうけれど。 「なぁに?ねぇね遊びたい?」 「クゥーン」『貴方がお腹を壊さないよう止めたんです』 「じゃあ、ごはん食べたらねっ」 全く通じない意志疎通。まぁ、仕方のないことなのですけれど。 一年前から私のエサを持ってくるようになった彼女は、二度言うようですが私の飼い主様のお孫さんです。名前をミナといい、私は飼い主様がそう呼んでいらっしゃるのを聞いて覚えました。 彼女と私は同じ家に住んでいたのに、その出会いは突然でした。ようちえん、とやらに行っていたミナを、飼い主様が迎えに行った時です。飼い主様に同行させられた私は、散歩感覚で飼い主様についていました。 ――「クゥーン」『今日はいつもより早いですね』 ――「これからな、深那を迎えに行くんだ」 ――「?」『“ミナ”?』 そして、私達の数メートル先に止まった一台のバス。そこから二、三人の人間の子が出てきました。 ――「おかえり、ミナ」 ――「あ!じーちゃん!」 そのうちの一人、黄色い帽子を被った短い黒髪の、元気という言葉が代名詞に合いそうな活発な女の子がこちらへ駆けてきました。 恥ずかしくも、向かってくるものに反射的に向かって行ってしまうのは犬の性で。私は歩く飼い主様を引っ張るように、その小さな女の子の元へ足早に歩みました。 ――「うっ!?」 途端、ビタリと硬直した彼女。私は構わず近寄ろうとしますが、あと数十センチというところでクンッとリードが張り、進めなくなりました。 ――「おかえり」 ――「じーちゃん、犬…!」 ――「あぁ、ずっとお家にいた犬だよ。“初めまして”だ、ミナ。この子はチコ」 ――「いこ?」 飼い主様がその子と話す間、私はスンスンと鼻を動かします。香ったのは柔らかい石鹸の香りと、少しの汗の匂いでした。 ――「チコはミナより年上なんだ」 ――「ししえ?」 ――「そう。年はミナよりお姉ちゃんだ」    
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