死への憧憬

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 その想いが初めて募ったのは、今とは違う孤独のなかで希望を見いだそうともがいていたときのことだった。  当時の孤独、それは俗な意味を否定するが、取って代わる意味を探し出せないもどかしさと、付随して沸き上がる諦念を中心とした無気力ゆえのものであった。  日々の生に気怠い空気が纏わり付く。生の意味を持つことが出来ず思考の深淵を落ちるばかりであったが、しかし、落ちる先に見えた死という言葉は僕を深淵から救い出した。  光輝く希望と未来を死の中に見た。  感じとることのなかった全てが死から溢れ、喜びと憧れに思考は停止、考える煩わしさが消えた。  以来、心は死に魅了されている。一時の喜楽に満ちた時間があっても、過ぎ去れば記憶に変わり、小さくても燃え続ける死への想いを吹き消すことはできない。  想像する死の景色は甘美な匂いに包まれている、希望と未来を孕む光そのもの。  生きているのが辛いなどではない、死は輝く希望であり、未来である、そして、それらを獲得するのが幸福と呼び、人が幸福のために生きると言うのなら、僕にとって死は焦がれるものだ。
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