通学路

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僕とカナがダイニングバーから一緒に出ると、カナの夫の車が店の前に迎えにきていて、僕は軽く会釈をした。 車だし送っていきますよ。カナの夫が運転席から降りてきて言った。 近くなので大丈夫です。と断る僕をカナは、半ば強引に後部座席に乗せた。 カナは助手席に座りシートベルトを締めてから、茶色いブランケットを膝にかけた。 カナの夫が運転する黒いフォルクスワーゲンの中で、カナが「そういえばさ」と話し始めた。 「そういえばさ、ウエハラ君って覚えてるよね?小学校の時に仲のよかった。今なにしてるか知ってる?あたしの友達にね、ウエハラ君と同じ音大に通っていた女の子がいて、その子から訊いたんだけどね、ウエハラ君って今、海外の吹奏楽団にいるんだって、すごいよね、結構有名な楽団なんだって言ってた。なんて楽団名か忘れちゃったけど、すごいなあ」 酒で頬を朱色に染めて、懐かしそうに暗くなった空を眺めながらカナは言った。
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