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実家の庭を出てから20分くらい歩いただろうか。
僕は急な勾配の長い坂道の前に立っている。
ポケットの中の鉄筋は、僕の体温を吸収して、ほんのりと温かい。
道路のアスファルトが一部分、剥がれて土を露出し、そこから雑草が生え出ている。
僕はその雑草の上に鉄筋を捨てた。
雑草に埋もれて外灯の光をキラキラと反射させる黒い鉄筋は、硬い殻をもつ甲虫の背中に似ている。
坂道を中腹まで登ると、坂の上には小学校の屋上に設置された、円柱型の貯水タンクが確認できた。
僕はそこで振り返ると、そのまま道路に座り込んだ。
児童養護施設と駄菓子屋の屋根が見える。
一週間前に母親から、かかってきた電話の事を思い出した。一時間近く話した気がする。
それほど長く母親と電話で話したのは初めてだったが、電話を切ると、僕の頭の中には「保険金」と「二千万円」という単語だけしか記憶されていなかった。
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