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煙草を吸っている僕の足元にL字型に曲がった鉄筋が落ちていた。
ちょうど人差し指くらいの長さをしていて、拾い上げると冬の風に晒されて冷えきったその鉄筋からは懐かしい匂いがした。
付着していた砂や埃を手で払い、ジーンズのポケットにL字型の鉄筋を捩じ込むと、僕は小学校へと歩きだした。
庭をでて50メートルほど進むと三階建ての大きな建物がある、二年前にできたばかりの児童養護施設だと帰省した初日に母が教えてくれた。
隣接している駐車場には、背の高い外灯があり霞んだ光を放っている。
建物は真白い外壁だが外灯の光が当たっている箇所は淡いピンク色に見える。
僕が小学生の頃、ここは空き地でサッカーや野球をしたり正月には毎年、凧を上げたりしてよく遊んだ。
道路をはさんで向かい側にある雑居ビルは昔、商店で八百屋や精肉屋や花屋や惣菜屋などが一階にあり、小さい頃おつかいに行くと、かならず惣菜屋のおばちゃんが蒸かしたサツマイモやコロッケを食べさせてくれた。
そのビルの二階には小さなブティックと美容室もあった。白と青と赤がくるくる回る置物が二階の窓際に取り付けられていて、パーマやカラーの時に使う薬品の匂いが開いた窓から風に乗って運ばれ、空き地で遊んでいた僕達のところまで届く。
僕達はその匂いを嗅ぐと「毒ガスだあ。吸い込むと病気になるぞ」と騒いだ。
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