通学路

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転校する前の日の放課後、ウエハラは僕の家に遊びにきた。 同じ小学校で過ごした思い出とか好きな女の子の話をしながらウエハラは瞳に涙を溜めていた。 「………中学に入学したらさ、吹奏楽部に入ってユーフォニウムって楽器が吹きたいんだ。この前テレビで初めて見たんだけどさ、いい音なんだよ。聴かせてあげたいなあ。おんなじ中学には行けないけど、いつか聴かせてあげたいよ」 ウエハラは震えた声で言うと、少し曇った眼鏡を外して、ハンカチで涙を拭った。 ウエハラが転校してから僕達は一度も会っていない。当時は携帯電話やパソコンなんて普及していなかったので連絡先もわからないし、住所も聞いていなかった。 僕は公園の横を通過しながら久しぶりにウエハラの顔を鮮明に思い出した。 懐かしくなり、ふと空を見上げた。 今日は確か満月だったが灰色の大きな雲に隠れていて見えなかった。 雲の流れは早い。 僕が実家の庭にいたときからほとんど風は吹いてなく静かだったが、遥か上空は台風のときみたいに突風が吹いているのかもしれない。 ジーンズのポケットに手を突っ込むと、指先が鉄筋に触れた。 鉄筋はまだ冷たく冷えていて触れた瞬間に背筋が、ぞわぞわして両腕の毛穴が粟立った。 公園を過ぎた辺りから道路が左に大きくカーブしていて、そこから2キロほど直進した先に小学校はある。 ちょうどカーブを曲がり終えたところで携帯電話が鳴り、ピピッと歯切れの良い電子音でメールだとわかった。 ジーンズの後ろのポケットに入れていた携帯電話を取り出す。 メールの差出人の欄には「カナ」と表示されている。
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